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02 セロテープ®でSDGsに貢献
味の素株式会社×ニチバン
味の素株式会社
取締役執行役専務

佐々木達哉
ニチバン株式会社
代表取締役社長

高津 敏明
司会進行:
一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会:深井賢一事務局長

深井事務局長一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会の深井賢一と申します。
本日は味の素株式会社 取締役執行役専務の佐々木達哉様をお迎えしております。
ニチバン株式会社 代表取締役社長 高津敏明様とお二人に、わたくし深井賢一がお話しを伺いたいと思います。

本日司会を務めます私ですが、「人と地球に優しい商品やサービス」をソーシャルプロダクツと定義して、その適正な市場開発や市場浸透・市場認知をミッションとしている団体である一般社団法人ソーシャルプロダクツ普及推進協会(以下APSP)の事務局長です。
私どもの協会で最も力を入れているのがソーシャルプロダクツアワードという、ソーシャルプロダクツに取り組んでいる企業や団体を表彰する制度となり、今年で10年目となります。
この制度において、2020年にニチバンのセロテープ®が大賞を受賞しました。これをきっかけとして、セロテープ®のサステナブルなビジネスへの取り組みを「Small Action For the Future(以下SAFF)」として推進を開始致しました。この取組みに対して、私も株式会社YRK andの取締役として関わらせて頂いております。

このSAFFの取り組みに対し、本日お招きした味の素株式会社の佐々木専務が関心を寄せて頂いている事を知り今回の対談を実施させて頂く事となりました。味の素株式会社様も色々な取組みをされているので、それも含めお話しを伺いたいと考えております。

まずは味の素株式会社 佐々木専務から自己紹介をお願い致します。

佐々木専務ただいま深井様よりご紹介頂きました味の素株式会社の佐々木です。
本日はこのような機会を頂きましてありがとうございます。
私はコーポレート部門を担当しておりますが、中でもサステナビリティにつきましては社内に「サステナビリティ委員会」というものが設置されており、その委員長を拝命しております。
これまでの経歴としては国内営業・マーケティング・事業開発・経営企画等に従事した後、ブラジル味の素社長の職に従事、2022年4月より現職となっています。
先ほど深井様から話しがありました通りニチバン様の取り組みに対しては非常に感銘を受けておりますので、本日はぜひ色々と学ばせて頂きたいと考えております。宜しくお願い致します。

深井事務局長では次に、ニチバン株式会社 高津社長から自己紹介を頂きます。

高津社長ニチバン株式会社 代表取締役社長の高津敏明です。
2020年にセロテープ®がソーシャルプロダクツアワードの大賞を頂き、同時にSAFF活動を社内外にアピールを始め早2年経過していますが、味の素株式会社様も色々な取り組みをされているという事で、我々も本日説明を頂く中で刺激を受けられればと思っております。
本日は宜しくお願い致します。

天然素材が主原料である「セロテープ®」による
SDGsへの貢献

深井事務局長それでは、まずは高津社長にお伺いします。
2020年のソーシャルプロダクツアワード審査会において、セロテープ®が天然素材だという事を審査員の方々が知りませんでした。ただその中で、セロテープ®は発売後70年にも渡る製品であり、これまで色々な取り組みをされていると聞いております。この点についてお伺いできますでしょうか。

高津社長まずセロテープ®の誕生についてですが、終戦直後の1947年にGHQから「自国で作っている透明粘着テープを輸入していたのでは製品が足りない」との事でニチバンに透明粘着テープ製造の打診がありました。この要請を受けおよそ1年後となる1948年に試 作品を先方へ提供・量産依頼を受けたのが始まりとなります。
この後1948年6月には国内への販売を開始しましたが、当時はセロハン粘着テープというものが日本には普及しておらず「この透明なテープはどのように使うのか?」という反応が多く販売促進には苦労したと聞いています。ただ皆様に認知されると非常に便利なものであるという反応を受け現在に至っている状況です。
ただし当然、当時のセロテープ®の組成からは色々な改善・改良を加えており、現在も品質改善は進めています。

このセロテープ®の主原料が天然素材であるという事は以前からニチバンとして各お客様に対してご説明差し上げておりましたが、なかなか浸透しないという実情がありました。

ただ世の中がこのような状況になった中で、改めてセロテープ®とOPPテープ(プラスチック素材のテープ)の違いについてご説明を進めております。セロテープ®は基材がセロハンというパルプからできた素材、また粘着剤も天然ゴムと天然樹脂を主成分としており、つまりは天然素材を使ったテープである事を改めてアピールしています。
またこれにより、焼却時のCO2排出量がOPPテープに比べ約1/7でありカーボンニュートラルに繋がる事、基材であるセロハンは生分解性がある事、生産時の電力をグリーン電力としている事、使用済みの巻心も回収して植樹に繋げている事などを総括した「エコサークル」という取組みも強化して進めています。

深井事務局長私も関わらせて頂いているソーシャルプロダクツアワードについて、エントリーをきっかけとしてもっと広めていきましょうという話しをさせて頂きました。その中で「セロテープ®を使う事で未来を一緒に創っていきましょう=Small Action For the Future」という形で流通企業へのアクションを進めました。流通小売店は全国に10万店あると言われていますが、これらを全てOPPテープからセロテープ®に切替える事で焼却時のCO2排出量が約6,300t削減できるとニチバンにて試算し、この数値の達成を目標としていきましょうという取組みが社内外で大きな反響となりました。この点についてお話し頂けますでしょうか。

高津社長まずお客様へのご案内という点について、従来は流通企業の購買部門へ提案をして参りましたが、価格面などの中心の商談となり理解を頂く事が難しかったです。ただこの活動を始めた事により各企業の経営層やサステナビリティ責任者の方など、いままでとは違う窓口の方々とお話しができるようになりました。これにより改めてセロテープ®の価値というものをお伝えし、納得頂いた上でOPPテープから切り替えて頂くという活動ができるようになりました。
またこれを通して弊社の営業担当者も、従来は価格だけの商談となりなかなか製品の事を伝えられていなかった状況から、我々の提供している製品の価値というものをいかに上手に伝え理解して頂けるかという形となり、営業としてのモチベーション・意識も相当変わってきたと捉えています。

深井事務局長営業パーソンの方々に対して「意識を変えて欲しい」という経営者の方々は多くいますが、行動が変わっていっているという事が反響を呼んでいる一つだと思います。高価か安価かではなく「一緒に未来を創る賛同企業になりませんか?」という文脈も色々な企業から共感を得られているポイントであり、そういう意味ではセロテープ®の70年以上続いてきた社会性を営業に繋げられている事になるのだと思います。
また日経MJに毎年関連する広告を出されていると思いますが、こちらも2020年に優秀賞・2021年に最優秀賞・2022年に大賞を受賞されているという事で、これについても大きな反響を呼んでいる事になるかと思います。

佐々木専務にお伺いします。
味の素株式会社様もAjinomoto Group Shared Value(以下ASV)として、事業を通じて社会価値と経済価値を共創していこうという取組みをされています。その意味ではニチバンが追求していこうとする取組みを既に実施されているという事で、このASVの企画・計画に関わった佐々木専務よりご説明を頂きたいと思います。

ASV:Ajinomoto Group Shared Valueでの
社会価値と経済価値の共創

佐々木専務ASVという議論が始まったのは2013年頃です。当時私は経営企画部におりました。
きっかけはマイケル・ポーター教授が提唱された「社会価値と経済価値の共創」という概念であるCreating Shared Value(以下CSV)です。これを研究して社内に取り入れていこうという中で、「これまで我々が続けてきた事そのものではないか」「志が共通である」という意見が社内で出ました。それであればCSVのCをAjinomotoのAに換えASVにしようという事となり、2014年からの3カ年計画の中でこの言葉を打ち出し始めました。

味の素株式会社にはMission・Vision・Value等からなる「Our Philosophy」という理念体系がありますが、この内のValueとしてASVを位置付けました。
また「味の素グループWay」という行動の拠り所となるものがあり、これをASVを実現するための行動様式と考え、現在の位置付けに変えました。

深井事務局長2013年にこのASVという企画が立ち上がったという事ですが、SDGsが採択された年が2015年、大企業に浸透したのは2019年頃、2020年にようやく一般認知度が40%に達するという状況の中で、その前から推進されていたというのは素敵な事だと思います。
私はいまのお話しを伺う中で、「ASVは今まで行ってきた事と同じではないか」というお話しがニチバンの経営理念などに近いと感じました。高津社長、ご感想はありますでしょうか。

高津社長このASVをValueとして位置づけしているのは凄い事だと思います。
また、これを世界中の全グループ社員の方々に対して10年に渡り浸透させられているという点も素晴らしい事だと率直に感じました。

深井事務局長このASVの取り組みとニチバンの取り組みは、元々やっていた事であるという点や経営理念の浸透という点でとても近いと思います。
これについて、「理念が素敵でやっている事も創業から繋がっている、だからこうしよう」という事を経営者の皆さんはよくおっしゃりますが、それを現場まで浸透させる事に悩んでいる企業は多いです。この点についての取り組みや工夫が味の素株式会社様にはあると伺いました。

佐々木専務ASVを現場に浸透させるために「マネジメントサイクル」を考えました。
味の素株式会社では対話を重視しています。社長や本部長などが直接、組織毎・若手社員・キャリア採用者などに対して対話をするなど色々な切り口でかなりの時間をかけて行い、グループが目指す姿などの浸透を進めています。
これを受けて年に一回、組織毎に個人目標発表会という事を行っています。各組織のメンバーがそれぞれ自分の目標を作り、これをお互いに発表しコメントし合うという試みなのですが、なかなか良い内容になっています。仕事だけではなくプライベートな内容も入れたりするなど工夫をしており、組織毎にとても個性が出ています。
ここで、ASVに基づく社長や経営陣からのメッセージを踏まえた自分達の目標を作り、お互いに共有していくという事を始めています。当然その目標の中にはASVをどうやって実現していくかという事を一人ひとりの仕事に落とし込んだものが入っていくという事を目指しています。実行していく中で自分たちのアイディアを小規模から始めてみようという事で、アクセラレータープログラムという背中を押す仕組みを作ったり、事例共有という事で社内SNSのようなもので「私が語るASV」という形で社員が語るASVをシリーズもので展開したりしています。
「ASVアワード」という、ASVの実現に向けた好事例をグローバルで表彰する仕組みも取入れました。

このような流れを年に1回エンゲージメントサーベイという形でモニタリングをし、このような活動がエンゲージメント向上・意思決定のリーダーシップ向上などに繋がっているかをチェックし、改善点を見出し、組織毎に取り組むというサイクルを回しています。
まだまだ改善の余地はあると思っていますが、だいぶ手応えが掴めてきたと感じています。

高津社長理念をどう浸透していこうかという事は社長就任以降4年間ずっと行ってきて、「自分事化=理念をまず自分事化して行動しよう」という事をいかに浸透させるか非常に大事に思っていますし、これを言い続けないと絵に描いた餅になってしまうので、このマネジメントサイクルという取組みは我々としても是非参考にさせて頂きたいと思います。
ニチバンもエンゲージメントサーベイ・理念共有を職場ミーティングで実施する事などは行っていますが、これらを参考にさせて頂きSAFFも含めて色々な事を浸透させていくサイクルを回していきたいと思います。

深井事務局長もう1点、気になっている事があります。
味の素株式会社のバイオサイクルについてご説明頂けますでしょうか。

「味の素®」のバイオサイクルとは

佐々木専務サトウキビを例にすると、主要な生産国であるタイやブラジルではサトウキビを絞った糖蜜を原料としていますが、作っている過程で副産物が出てきます。これ自体にもアミノ酸等が入っており栄養価に富んでいるため、近隣の農家の方々に利用頂く事で肥料としてサトウキビ自体の品質にも貢献できるという事があります。また絞りカスを燃料源に使ってエネルギーを産生するなど再利用しています。
サトウキビやキャッサバ芋を原料として利用し、途中で抽出されたものも含めてその土地にお返しさせて頂く事で自然とサイクルができておりましたが、なかなか上手くお客様に説明できていなかった事もありますので、ここをしっかりお伝えしていこうという事をしています。

深井事務局長私の世代だと「味の素®」は化学調味料と認識してしまっており、あまり良い印象がありませんでした。サトウキビからできて、またもう一度サトウキビの肥料になるという仕組みであり、しかも生産国のサトウキビがその国の「味の素®」になるという本当の地産地消という事。高津社長はどのようにお感じになられましたでしょうか。

高津社長私も恥ずかしながら「味の素®」は化学調味料というイメージがあり、このような素材からできているという事は知りませんでした。また従来からこのようなサイクルを回しておられる事も初めて知りました。このサイクルをこのように上手に絵として今の世代に伝えていこうと始めたきっかけはASVなのでしょうか。

佐々木専務そうですね。ASVというキーワードを出したことで改めて「自分たちがやってきた事はASVだよね」と気づいた事と、SDGsを含め関心が高まってきている中で、このような打ち出し方ができればより関心を持って頂けるのではないかという事で始めました。

深井事務局長意外と知られていないという意味では、先ほどの「セロテープ®は70年以上前からずっと言ってきが意外と知られていない」と良く似ているなと思いました。参考にもなると思いますし、同じような苦労をされているなと思いました。

もうひとつ、佐々木専務にお伺いします。
フードロスの削減について、取り組まれている事を教えて頂けますでしょうか。

味の素グループにおけるフードロス削減

佐々木専務サステナビリティに関する取り組みでいえば、CO2の削減・プラスチック廃棄の削減・サステナブル調達・栄養改善などがありますが、フードロスも大きなテーマになっています。
フードロス削減はバリューチェーン全体で行う必要があります。生産の工程で出るロスを削減する事は心掛けてやってきましたが、よりそれを定量化して見ていかないといけないと思っています。
また分かりやすい例で言えば「消費期限をなるべく長くする」という事もあります。これについては研究開発やパッケージングの改良などで取り組みをしてきました。

ただもう少しお客様と一緒にできる事があるのではないかと考えました。
実はここがSAFFの取り組みに感銘を受けた点となります。流通の皆さんとは色々できている事はありましたが、アクションとしてその先の生活者の皆さんが「自分で一緒に何かができる」という投げかけを直接的にする事ができないかと考えました。
そこで「捨てたもんじゃない!!TOO GOOD TO WASTE」というロゴを作りやっていこうとなりました。
例えば、冷蔵庫の余り野菜や、普通なら捨てる部分を使ったメニュー提案を始めています。これは日本のみならず海外でも非常に理解しやすい事なので、いまそれぞれの国にある知恵をお互いに共有して進めています。考え方が浸透すれば食材や調理法は現地の工夫でアジャストしていくという事で広がりを見せているという事と、生活者の皆さん、特にお子さんと取り組むテーマとして非常に面白いと反応を頂いていて、もっともっとやりたいなと思っています。
まだ始めたばかりなのでニチバン様の取り組みから比べればまだまだですが。

深井事務局長私たちから見ると完璧に思ってしまいますが、課題がおありだという事も分かりました。

先ほど少しお話し触れられましたが、本日の対談のきっかけとなったSAFFの取り組みに関心をもってくださった部分はどのような所でしょうか。

佐々木専務個々の小さなアクションがお互いに繋がってムーブメントになっていることを伝えている所です。シンプルですが説得力があるなと思いました。
もっともっとこのようなことを学びたいと思っています。

SAFFについては色々な所で紹介させて頂ており、先日のインドネシア出張時にも話しをさせて頂きましたがメンバーも驚いていました。

高津社長我々も企業として色々な取り組みは行っていますが、その中でのSAFFは「小さな活動から世界を救おう、ちょっとした事からでも活動する事によって参加している事となる」という形にできています。この点では味の素株式会社様は食を扱う会社なので我々よりも浸透するのではないかと感じました。

深井事務局長いまSAFFに賛同しているとホームページに掲載されている流通企業は110社を超えています。このように各企業がせっかくOPPテープからセロテープ®に替えてくれているので、今後はより色々な所でアピールしていくと各お客様が「うちにある透明テープはセロテープ®なのか?確認してみよう」というムーブメントが起こる事が次のステップになるのではないかと思います。まさに「スモールアクション=未来を創っていく」という事になると思います。

お二人に最後の質問をさせて頂きます。
味の素株式会社のASV・ニチバン株式会社のSAFF、それぞれ今後どのような展開をお考えでしょうか。

〜今後の展開〜 味の素のASV・ニチバンのSAFF

佐々木専務ASVはまだまだやらないといけない事が多いと思っています。「社会価値と経済価値の共創」がASVの原則です。まず経済価値がきちっと伴っていなければサステナブルに続けられません。ここをしっかりやる事で継続できるという事をいま一度確認していきたいと思います。
また社会価値については定量化していきたいです。社会価値創出に至る道筋を明らかにして、それがどれくらいの経済価値を生んでいるか数値化して示す事に、難易度は高いが取り組んでいきたいと思います。

深井事務局長経済価値があるから持続性がある、これは我々がソーシャルプロダクツと呼んでいるものです。サービスも含めてプロダクツとしての品質の担保が無ければリピートにならない。「きちっとビジネスとして成り立つ形があって、その上で社会性」という事であると感じました。

高津社長いまおっしゃられた通り経済価値を両立しなければならないという点は全く同感です。
その中でSAFFについて、いまは「セロテープ®SAFF」という事で一部のフィールドとして注力していますが、まずは社内的に全社で意識を持つ事にまだまだ課題感があると感じています。
また、いま賛同企業は110社を超えている状況ですが、これを広げると共に、いま賛同頂いている企業様にもっとフォローをして、逆に色々な提案を頂きながら新しい製品開発にも繋げるような活動にしていきたいです。
さらに、現在はセロテープ®という切り口でSAFFを進めていますが、そもそもスモールアクションは別にも色々な事があるのではないかと考えています。この土台となるスモールアクションの種類も今後は更に増やしていきたいと思います。

深井事務局長味の素株式会社のASV、ニチバン株式会社のSAFF、それぞれの広がりがこれから本当に楽しみだと思います。
本日はありがとうございました。

セロテープ®でSDGsに貢献 未来対談(味の素 佐々木専務&ニチバン 高津社長)