術後にテープを貼って意味がある?ー目立たない傷跡にするための最新理論と理想的な傷のケア法ー

dummyimg
dummyimg
テープは皮膚にかかる張力の方向に
テープは皮膚にかかる張力の方向に

当科には、ケロイド・肥厚性瘢痕の患者が年間1,500~2,000人訪れます。手術やピアスなどの人為的な創傷が原因のケロイドを除く、1,500人の患者のケロイドの発生部位の内訳を調べてみると、ケロイドの約半数(733人、48.9%)は前胸部で発生していることが分かりました1)。実際、前胸部、恥骨上部、上腕-肩甲部のような、皮膚に張力がかかり、かつ動く部位にケロイドが発生しやすいことは昔からよく知られています。

ケロイドが増殖する原因を考察するために当科で実施したケロイドにかかる力についてのコンピューターシミュレーションでは、瘢痕の長軸方向に張力を加えた場合、瘢痕の長軸の両端に張力が集中することが示されています2)。瘢痕は皮膚よりも硬いので、その境界部位に張力が集中すると考えられます。この張力が集中している領域は、実際のケロイドと同様の形状であることから、ケロイドが増殖する原因は瘢痕の長軸両端の皮膚にかかる張力によって炎症が続くことだと考えられます。

実際、腹部のケロイドはほとんどの場合縦に、胸部のケロイドは横に広がっていきます(図1a)。これは大胸筋や腹直筋の動きに従って皮膚に張力がかかるためです。ケロイドの発生を予防するためには傷跡にかかる張力を緩和することが重要で、その方法の1つがテープによる傷跡の固定です。このとき貼付するテープは、傷跡の方向に関わらず、筋線維の方向、すなわち皮膚にかかる張力の方向に貼るのがよいと考えます(図1b)。

dummyimg
切開は皮膚にかかる張力に直交する方向に
切開は皮膚にかかる張力に直交する方向に

傷跡にかかる張力を緩和するもう1つの重要な方法として手術手技の工夫があります。膝関節にかかる線状の肥厚性瘢痕を切除した症例を提示します。関節にかかる線状の瘢痕は、関節の屈曲によって張力がかかるため炎症が持続し、肥厚性瘢痕やケロイドに進展するリスクを伴います(図2)。このような瘢痕はZ状の切開線を加えるZ形成術で瘢痕を分断することによって張力を緩和し、瘢痕の整容性を改善できると考えます。この症例の場合、術後3ヵ月でZ状の切開線のうち張力の方向と直交するラインの瘢痕は目立たなくなり、術後1年で炎症も治まりました(図2)。

dummyimg

ひと続きの長い瘢痕には大きな張力がかかるため、炎症が持続・悪化しますが、Z形成術で分断することでそれぞれの分断された瘢痕にかかる張力が小さくなり、炎症が治まると考えられます。実際にコンピューターシミュレーションで皮膚に加わる張力の方向と瘢痕の方向の関係を調べたところ、張力の方向に平行な瘢痕には強い張力がかかりやすい一方、張力の方向と直交する瘢痕に対しては張力が分散されて弱まることが示されました3()図3)

dummyimg
体の部位ごとの理想的な切開線
体の部位ごとの理想的な切開線

これまでの経験を元に、手術創を肥厚性瘢痕やケロイドにするリスクを減らす理想的な切開線を体の部位ごとに示します(図4)。頭頂部、前脛骨部、上眼瞼は、熱傷や外傷によるものを除けばケロイドができやすい体質の方でもケロイドの発生をほとんど認めない部位です1)。頭頂部と前脛骨部の皮膚は直下に骨があるため、体が動いてもほとんど伸展・収縮がありません1)。また上眼瞼の皮膚にはほとんど張力がかかっていません。これらの部位の特徴は、傷を肥厚性瘢痕やケロイドにすることなく治すうえで重要な因子について示唆しています。

dummyimg

形成外科領域には、Relaxed Skin Tension Line(RSTL)に沿って切開すると傷がきれいに治癒するという理論があります。RSTLは皮膚が弛緩したときに生じる線で、皺とほぼ一致し、筋肉の収縮によって引っ張られる方向と直交します。例えば前頭部では前頭筋の走行と直交する向き、すなわち額の皺に沿って横に切開した方が創はきれいに治癒しやすいと考えられます。

下腹部の切開では、腹直筋の切開や臓器へのアプローチについては別問題として考えると、横切開が望ましいと考えます。これは腹直筋が縦に走っていて皮膚が縦方向の張力を受けるためです。腹部正中切開を行う必要がある場合は、臍部周辺で切開方向を切り替えて横切開を入れることで肥厚性瘢痕やケロイドの発生リスクを軽減できると考えます(図5)。

dummyimg

胸部の切開では、大胸筋により左右に張力がかかるため、縦切開が望ましいと考えます。胸部の正中切開は、ケロイド・肥厚性瘢痕の予防という意味でも理に適っているのです。

切開する部位に皺がない場合は、皮膚がどの方向に引っ張られるか、体を動かしてみて、皮膚が引っ張られる方向に直交する線を切開線とするとよいでしょう。しかし肩甲部や乳腺の周囲、前腕については皺がなく、皮膚の動きをイメージするのも困難です。

そこで、さまざまな動きに従って前腕の皮膚がどの方向に引っ張られるか、前腕に正方形を作るように9つの点を打ち検討しました。その結果、前腕では最も皮膚が引っ張られるのは回内・回外の動きであり、雑巾を絞っているときの雑巾表面の皺のように、斜めに切開するのがよいと考えられました(図6)。

dummyimg

肩甲部では、ケロイドが生じた場合は横に増殖していく傾向が強いことから、切開は縦の方向がよいと考えます。横に切らなければならない場合は、Z形成術によって創を分断して創にかかる張力を解除してやるのがよいと考えます。

乳癌の発生頻度の高い乳房外側上部(C領域)の場合は、可能な限り大胸筋の繊維の走行に直交するような乳房の上縁に沿ったなだらかな切開線が最も整容性の高い創の治癒につながると考えます。癌の位置によっては切開線の決定が困難ですが、腕を動かして皮膚が引っ張られる方向を観察して決定します。

長軸・短軸の両方向に伸びにくいテープの有用性
長軸・短軸の両方向に伸びにくいテープの有用性

皮膚にかかる張力の方向を患者に説明し、確実に張力が緩和されるようにテープを貼付してもらうことは、とりわけZ形成術のように複雑な形状の創の場合には容易ではありません。しかし、長軸方向にも短軸方向にも伸びにくく、創にかかる張力の方向によらず創全体を固定できるテープがあれば、患者は簡単に貼付できます。そのテープはニチバンの傷あとケアテープ「アトファイン」です。傷あとケアテープ「アトファイン」は長軸方向にも短軸方向にも伸びにくいことに加えて、はく離刺激が少ない、ウェーブ形状ではがれにくい、傷に合わせて3つのサイズから選ぶことができるといった特長を有しています。特に、はく離刺激が少ないという特長は、貼り替え時の刺激による接触皮膚炎の発症リスク低減に有用と考えます。

術後ケアに傷あとケアテープ「アトファイン」を使用した症例を提示します(図7a、7b)。傷あとケアテープ「アトファイン」は入浴してもはがれにくく、1週間に1回程度の貼り替えで済みます。かゆみが出たら、テープの上からステロイドの塗り薬を塗布することも可能です。また、長い傷には2枚貼って対応することもできます。

dummyimg
テープによる縫合部の固定期間
テープによる縫合部の固定期間

テープはどのくらいの期間、貼る必要があるのでしょうか。これを考えるため、肥厚性瘢痕や、ケロイドが形成される機序をみてみましょう。

肥厚性瘢痕の病理組織標本を観察すると、表皮と真皮乳頭層は正常であるのに対して、真皮の網状層では血管増殖、神経線維増殖、膠原線維増殖、炎症細胞浸潤が見られます(図8)。このことは真皮に張力がかかることが肥厚性瘢痕の原因であると示唆しています。

dummyimg

イギリスで、ヒューマンボランティアの皮膚に対して網状層に達する深さから徐々に浅くなるような切開を加え、縫合後の創の治癒を観察するという研究が行われました4)。それによると、真皮網状層に到達した傷では肥厚性瘢痕が発生し、真皮乳頭層程度かそれ未満の深さの傷、すなわち真皮網状層に達しない浅い傷では肥厚性瘢痕はほとんど発生しませんでした。

重篤なケロイドを生じた症例でも、病理組織標本を観察すると、表皮と真皮乳頭層は正常です。一方で真皮網状層では硝子化したコラーゲンが出現しており、肥厚性瘢痕の場合よりも炎症が強くなっています(図9)。

dummyimg

以上のことは、ケロイドは肥厚性瘢痕の炎症がより強いタイプであること、そしてケロイドも肥厚性瘢痕も、真皮網状層に傷ができて、かつ炎症が持続した場合に発症するということを示しています。

それではなぜ傷が真皮網状層に達すると肥厚性瘢痕やケロイドが生じやすいのでしょうか。それは表皮と真皮では創傷治癒の過程が全く異なるためです。表皮の場合は皮膚の付属器以外は短期間でほぼ再生するのに対して、真皮の場合はまず欠損を埋めるための肉芽組織ができ、それが強固な組織に変化し、それから真皮様組織ができるという過程をたどります。縫合糸メーカーのデータによると、切開された真皮の創傷治癒の過程では、本来の組織がもつ支持強度の約50%に修復されるのに約4週間かかり、約90%に回復するのに3ヵ月かかります。つまり手術創は抜糸後もまだ皮膚の下では治癒していないのです。しかし、患者は日常生活や、早期の回復のために運動を始めてしまいます。術後3ヵ月頃から肥厚性瘢痕が発生するのはこれらが原因の1つと考えます。

以上のことから、創固定のテープは、通常の手術であれば最低3ヵ月、可能であれば3~6ヵ月は貼付した方がよいと考えます。ただし私の臨床経験上では額、上眼瞼など顔の中であまり皮膚に緊張のかからない部位では、1ヵ月も貼れば十分と考えます。

肥厚性瘢痕の兆候が現れたら直ちに副腎皮質ホルモン剤のテープを使用
肥厚性瘢痕の兆候が現れたら直ちに副腎皮質ホルモン剤のテープを使用

 肥厚性瘢痕やケロイドを生じやすい体質の患者の場合は、テープによる固定だけでは十分にそれらの発生を抑えられない場合があります。そのため、術後、創部の経過観察中に瘢痕の発赤や隆起など肥厚性瘢痕発生の兆候が現れた場合は、直ちに副腎皮質ホルモン剤のテープを使用するように患者を指導しています。ただし、手術直後から副腎皮質ホルモン剤のテープを使用することは、閉創部の結合が弱くなり瘢痕の幅が開大する可能性があるので、避けた方がよいと考えます。

瘢痕の幅が開大する機序は2種類
瘢痕の幅が開大する機序は2種類

手術創の瘢痕の幅は経時的に開大することがあり、その機序は2種類あります。

1つは術後に一時的に肥厚性瘢痕が発生して瘢痕の幅が開大した後、炎症が治まっても肥厚性瘢痕の幅のままの正常な瘢痕として治癒するケースです。これを防ぐにはできるだけ早期に炎症を治めて肥厚性瘢痕を発生させないことが重要であり、術後最低3ヵ月のテープ固定が有効な手段だと考えます。

もう1つは、手術創が肥厚性瘢痕を発生することなく治癒したものの、術後2~3年経過して観察すると開大しているというケースです。このケースでは強い張力によって膠原線維が断裂することにより瘢痕の幅が開大すると考えられます。瘢痕の幅を広げないためには術後3年以上のテープ固定が必要だと考えられますが、現実的ではありません。このような機序で起こる瘢痕の幅の開大を抑制するにはZ形成術による減張が有用です。

前胸部に上下に2個並んでいるケロイドの摘出術においてZ形成術を適用した症例を提示します(図10a)。上下のケロイド切除創にそれぞれ1ヵ所と3ヵ所、Z形成を加えたところ、いずれもケロイドの再発なく治癒しましたが、術後24ヵ月後の写真では、Z形成を3ヵ所加えた下の瘢痕の開大は許容できる範囲であるのに対して、Z形成が1ヵ所であった上の瘢痕の開大はやや目立ちます(図10b)。Z形成術によって創にかかる張力を十分に分断・緩和することで手術創の幅の開大は抑制できると考えます。

dummyimg
手術治療における減張の工夫
手術治療における減張の工夫

 張力のかかる部位でのケロイドや瘢痕拘縮の手術治療ではテープによる創固定も活用しながら、創の確実な減張を図る手技の工夫が重要です。ケロイド摘出術では、ケロイドを皮膚腫瘍と同様に考えて深筋膜まで切除し、深筋膜と筋の間をはく離してから、深筋膜、浅筋膜、真皮最下層、皮膚表面を縫合します(図11)。深筋膜のような強度の高い膜組織に縫合糸をかけ、真皮や表皮の縫合を行う前の段階でも創が閉じてなだらかに隆起するように縫合することが重要です(図12)。真皮縫合の段階で創縁を強く寄せるようでは肥厚性瘢痕等の発生リスクが高くなります。縫合部は非固着性ガーゼで覆い、テープにより固定をします。図12の創は術後2年で目立たない正常瘢痕となりました。

dummyimg
dummyimg
難しいケロイドでも整容性と患者のQOL改善を追求する
難しいケロイドでも整容性と患者のQOL改善を追求する

 私たち形成外科医は、さまざまな手技を駆使しあらゆる知識を動員することで、難しい瘢痕に対しても整容性と患者のQOLの改善を追求するべきだと考えます。ぜひ、ケロイド・肥厚性瘢痕を恐れることなく、積極的に治療していただきたいと思います。そして、あらゆる手術創を目立たない瘢痕にすることを目指して、手術と術後ケアにおける工夫を考え続けていただきたいと思います。

[参考文献]

  1. 1)
    Ogawa et al., Wound Repair Regen. 2012; 20(2): 149-157.
  2. 2)
    Akaishi et al., Ann Plast Surg. 2008; 60(4): 445-451.
  3. 2)
    小川 令, 瘢痕・ケロイドはここまで治せる-Less-Scar Wound Healingのための形成外科-, 20, 克誠堂出版, 2015
  4. 2)
    Dunkin et al., Plast Reconstr Surg. 2007; 119(6): 1722-1732;discussion 1733-1734.

製品紹介

アトファイン

手術後の傷あとケア専用テープ。肥厚性瘢痕・ケロイドの要因となる伸展刺激・摩擦刺激・紫外線から「傷あと」を守ります。

dummyimg

このページを共有する

製品カタログ

製品に関するご質問

Q&A

製品に関するお問い合わせ

フリーコール

0120-377-218

FAX 03-5229-2330

受付時間

9:00~12:00、13:00~17:00 (土・日・祝日・年末年始・夏季休業期間を除く)

  • お問い合わせの際は、番号をよくお確かめの上おかけください。
  • 回答に正確を期すため、お電話はすべて録音させていただいております。