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PROJECT
STORY03

手術後の傷あとケアテープ
「アトファインTMの開発

OUTLINE

手術の傷(縫った傷)は、傷口が閉じてから約半年かけて肌の色に近い目立ちにくい傷あとになっていきます。この期間に傷あとが引っ張られる刺激(伸展刺激)が加わると、これが炎症となり、肥厚性瘢痕やケロイドと呼ばれる目立つ傷あとになる可能性を高めるため、傷が閉じてからも暫くの間は傷あとのケアをすることが重要です。手術後の傷あとで悩む方は多く、傷あとが残りやすいとされている「帝王切開」で出産された女性を対象に調査した結果、約8割の方が「傷あとが気になる」としながら、「ケア方法を知らなかった」ことを理由に約7割の方がケアをしていないことが分かりました。また、代表的な傷あとケア方法の1つに『短冊状に切ったサージカルテープを重ね貼りする』という方法がありますが、約5割の方がケアを途中で断念していることも分かりました。断念する理由として、かゆみやかぶれ等の皮膚刺激が発生しやすいことや、出産直後のとても忙しい時期に何枚ものテープを切ったり貼ったりする余裕がないためでした。こうした現状をもとに、「誰にでも簡単に必要な期間ケアを続けられる」をコンセプトにアトファインTMの開発をスタートしました。

PROJECT MEMBER

  • 製品開発部

    2008年 入社

    工学部 生物工学科

EPISODE 01

色々な手術がある中でまずは「帝王切開の傷あと」を対象に開発を進めることになりましたが、産婦人科領域はニチバンにとって新たな領域であり、「マーケティング戦略の立案」と「傷あとケア方法の啓蒙」が課題でした。「マーケティング戦略の立案」では、帝王切開に関わる方(産婦人科医、助産師、帝王切開で出産された女性)からの情報収集を徹底的に行いました。医療従事者との面談では、傷あとケアの指導方法及び指導が積極的に行われていない理由、ママさんからは帝王切開に関する情報収集方法や購買決定要因、理想的な買い場などをヒアリングし、マーケティング戦略に落とし込みました。「傷あとケア方法の啓蒙」では、妊娠/出産後の女性の情報収集方法を参考にし、病院に設置する小冊子を作成し、「帝王切開 傷あと」などのキーワードで検索するとヒットする傷あとケアの啓蒙を目的としたwebページの立ち上げを行い、積極的に情報発信しました。余談ですが、最初に作った小冊子は「傷あとケア方法」だけではなく「帝王切開全般の知識」にフォーカスした内容にしました。帝王切開で出産されたママさんのサークルに参加した際、そもそも世の中に「帝王切開での出産」に関する情報自体が不足していることが分かりました。少しでも帝王切開で出産される女性のお役に立てるよう、帝王切開の情報を盛り込んだ小冊子にしました。

 

EPISODE 02

ベンチマークとなる競合品が無かったため、設計時の評価方法やその目標値の設定に苦労しました。設計担当者を交えて傷あとケアのプロである形成外科の先生を何度も訪問し、議論を重ねて詰めていきました。また、アトファインTMのコンセプトである「誰にでも簡単に必要な期間ケアを続けられる」を実現するためには、1枚のテープを貼るだけで伸展刺激を抑制でき、1週間貼り続けられ、低刺激であることが必要でした。伸展刺激を抑制するために「タテにもヨコにも伸びない基材」、低刺激のためには「肌に優しい粘着剤」を採用する必要がありますが、剥がれやすかったり、貼付中の痒みや違和感が大きいなどの理由により、1週間貼り続けられるテープの設計にとても苦労しました。一般的にテープは応力が集中する“カド”から剥がれるという点に着目し、様々な“カドのない”形状を考案し、1枚1枚皮膚に貼って確かめて、今のウェーブ形状にたどり着きました。設計担当者の執念により、1枚のテープで伸展刺激を抑制でき、1週間貼り続けられ、同じ部位に半年以上繰り返し貼る事ができるテープを実現することができました。

EPISODE 03

アトファインTMは出産した病院で紹介/指導され、退院前に病院の売店で購入し、退院後は通販で購入してケアを継続することを想定しており、病院と通販の両方の買い場を揃える必要がありました。産婦人科領域はニチバンにとって新たな領域でありコネクションが少なかったため、産科婦人科学会での企業展示や産科領域に強い取引先様の協力も頂きながら、少しずつ提案先を増やしていきました。また、通販についても、営業のメンバーに協力頂き、取り扱って頂ける企業様が見つかり製品発売前に買い場を揃えることが出来ました。これまでの医療材フィールドの製品は、医療機関が採用・購入するものがほとんどで、アトファインTMのように病院の売店と通販で患者様ご自身が購入することを想定した製品は無かったため、きちんと患者様の手に届く仕組みになっているか不安でしたが、ほぼ想定どおりの結果となりほっとしたのと同時に、手術を受けた病院で傷あとケアの方法を指導いただき、退院後もケアを継続できる環境を整えることが出来たため、ここから傷あとケアがもっと広がればいいなと思ったことを覚えています。

 

EPISODE 04

“傷あとケア”は産婦人科からのニーズも強かったことや、傷あとケアのプロである形成外科医のノウハウを取り入れた製品であったことから、医療従事者の理解が得やすく、従来の医療材フィールドの製品に比べてスピーディーに医療機関に採用頂き、多くのママさんにお使い頂けるようになりました。傷あとケアの啓蒙を目的に作成したwebサイトの閲覧数も販売数量と比例して上昇し、傷あとケア方法を知って頂けるきっかけになっています。また、アトファインTMの販売を通じて、アプローチ可能な診療科領域が広がり、従前の活動では得られなかった開発関連情報や人脈の獲得に繋がっており、医療材フィールドの開発/営業活動が活性化しました。なによりも、SNSや口コミで「アトファインTMを使ったら傷あとがきれいになった」であったり、「帝王切開の傷ってどうやってケアしているの」というつぶやきに対して「アトファインTMっていうテープがおすすめ」等のお客様同士のコミュニケーションがアトファインTMを通じて生まれているのを見ると、この製品を開発した甲斐があったなと感じます。

 

EPISODE 05

より多くの医療従事者や患者様に正しい傷あとケアの方法を知っていただくために、現在は産婦人科だけでなく、「乳腺外科」や「甲状腺外科」など傷あとに悩む患者様が多い診療科への提案を進めています。サイズアップも発売時は3サイズでしたが、コンセプトである「誰にでも」を実現するために、15cmを超える傷あとから、内視鏡外科手術後の小さい傷あとにも対応できるサイズを追加し、より多くの患者様に使っていただけるラインアップを揃えました。目立たない傷あとを実現することは世界共通のニーズだと考えています。今後は、日本のみならず世界中の人にアトファインTMを通じて正しいケアを行って頂き、手術後の傷あとで悩む患者様を一人でも多く減らし、QOLの向上に貢献していきたいと思います。最後に、傷あとケアのキーワードとして「スカーレスヒーリング(傷あとのない傷の治療)」という言葉がありますが、現時点では傷あとを目立ちにくくすることはできますが、完全に傷あとをなくすことはできません。スカーレスヒーリングに向けた研究を積極的に行い、世界の傷あとケアを支えるリーディングカンパニーを目指していきたいです。